世帯分離で老人ホームを安く利用する方法や注意点について

高齢化社会と言われる現代において、老後の暮らしに関する金銭的な問題は他人事ではありません。年齢を重ねて老人ホームなどの介護施設を頼る必要が生じた際、お金が足りずに適切な介護を受けられない可能性は誰の身にも起こりうると言えるでしょう。

ここでは世帯分離による金銭の負担軽減や手続きに関する注意点についてお伝えします。

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老人ホームの歴史と高齢者への介護の問題

現在の高齢者介護は様々な内容であり、介護施設も目的別にサービスが細分化されています。しかし、そのような状況であっても高齢者介護施設の多くが老人ホームと呼ばれているのも事実です。日本における老人ホームの歴史は19世紀末に設立された聖ヒルダ養老院が最初と言われています。

当時の養老院は介護施設ではなく、生活困窮者を対象にした救護施設の意味合いがありました。聖ヒルダ養老院も同様で、夫に先立たれた高齢の未亡人を対象にした救護施設でした。また、高齢者を社会全体でケアする考えが一般的ではなく、家族が世話をするのが当然とされていたのも事実です。

そのため、養老院へ行く高齢者は家族と不仲であるという、誤った考えが広まったこともありました。養老院が高齢者介護施設と位置付けられたのは1950年に生活保護法が制定されたことに由来します。

高齢者の介護は国、そして社会全体が取り組む課題と認知され、養老院の名称も養老施設に変わりました。それでも当時はまだ、生活に困窮した高齢者を救護する施設として機能していたのが実状です。現在のように要介護の高齢者をケアする施設として確立したのは1963年に老人福祉法が制定されてからです。

老人ホームの名称もこの頃から使われるようになり、高齢者の暮らしは社会全体で支える認識が広まりました。しかし、高齢者は家族がケアするのが当然という考えは根強く残り、高齢者本人も老人ホームを忌避する考えを持っていた事実は否定できません。

介護のプロであっても老人ホームの職員は他人なので、高齢者が緊張してしまう可能性があります。

老後を自宅ではない所で過ごすことに抵抗感を抱く高齢者も少なくありません。当事者である高齢者が納得できる介護を行うことが介護業界全体の課題と言えるでしょう。

高齢者介護と金銭の負担の関係について

高齢化社会と言われる現代、老人ホームをはじめとする様々な高齢者介護施設が増えています。一方で高齢者のすべてが十分なケアを受けているわけではありません。施設の数に対し、ケアを受けられる高齢者が多くないと言えますが、これは施設の利用料金が高額化しているためです。

老人ホームを例にすると、毎月の利用料金は約20万円から30万円が平均的な相場です。家族と別居して老人ホームに入居すると、世帯二つ分の生活費がかかる計算になります。

施設によっては利用料金が更に高額化する他、入居一時金を支払う必要があるため、金銭の負担が大きくなります。

経済的な理由で適切なケアを受けられない高齢者がいるのは紛れもない事実です。

世帯分離で介護負担が軽減できる仕組み

高齢者介護は金銭の負担が大きく、高齢者本人だけではなく家族の暮らしも圧迫する事実は否定できません。適切なケアを受けるためには出費を惜しんではいけませんが、家族の暮らしを無視するのは現実的ではないとも言えます。

住所は同じでも住民票の上では世帯が別れた形になっている世帯分離は介護による金銭の負担を軽減できる工夫として注目されています。世帯分離が金銭の負担軽減に繋がるのは、介護サービスの自己負担額が本人の所得や世帯の所得で決まるためです。

特に世帯の所得は高齢者本人が無収入でも家族に収入があると、その金額に応じて自己負担額が決まります。同じ介護サービスでも人によって負担額が異なることは珍しくありません。世帯分離によって高齢者を単独世帯にすると、介護サービスの自己負担額は高齢者だけの収入から算出することになります。

家族と同じ世帯の状態よりも遥かに少ない金額に留めることも不可能ではありません。世帯分離は法律に抵触しない、国民の権利として行うことができます。老人ホームへの入居を考えているが自己負担額が高額になってしまう人は、世帯分離が重要な選択肢になるでしょう。

世帯分離を行う方法や注意点の詳細

世帯分離の手続きは市区町村の窓口で行います。手続きができるのは世帯分離を行う本人や世帯主、同一世帯の人です。尚、同一世帯の人が手続きを行う場合は親族であっても委任状が必要なので注意しなければいけません。

手続きには世帯変更届の他、免許証やマイナンバーカードなどの本人確認書類、国民健康保険証が必要になります。また、同一世帯の夫婦による世帯分離はできないので併せて注意します。世帯分離は介護サービスの自己負担額を軽減できるメリットがある反面、世帯を分けたことによるデメリットもある事実は無視できません。

国民健康保険は世帯ごとに保険料を支払うので、世帯分離で却って出費が増えてしまう可能性があります。世帯を分けることによって様々な手続きに委任状が必要になるのも大きなデメリットです。委任状は世帯を分けた本人が作成しますが、高齢者は心身の不調で作成が困難になっていることも珍しくありません。

自己負担額を減らせるからと安易に実施せず、慎重に判断する姿勢が求められます。

本人の意思と公的な福祉のあり方を軽視してはいけない

世帯分離は介護サービスに関する金銭の負担を軽減できる方法ですが、社会福祉は生活弱者へのサポートが目的であることを忘れてはいけません。世帯分離はお得な裏技ではなく、単身世帯にしないと適切な介護サービスを受けられない人に向けた公的なサポートと認識する必要があります。

また、本人の意思を尊重することも介護サービスを受ける際の重要なポイントです。どれほど質が高いサービスを提供する施設でも、高齢者本人が利用したくないと考えていた場合は無理強いをしてはいけません。高齢者介護は当事者である高齢者の意思を第一に考え、要望にもできる限り真摯な姿勢で応えることが重要になります。

世帯分離のメリットとデメリットを正しく認識するのが基本的な心得

高齢者への介護サービスの自己負担額は本人や世帯の所得で変動するため、出費を減らす目的で世帯分離を行う人は少なくありません。高齢者だけの世帯になれば世帯全体の収入は大幅に減るので、介護に関する出費の軽減に繋がります。

一方で国保の支払い金額が増えてしまう、様々な手続きに委任状が必要になるなどデメリットもあります。老人ホームに少ないお金で入居できるからと安易に行わず、世帯を分けることでその後の暮らしにどれほどの影響が及ぶかを正しく認識することが大切です。